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小太郎漢方製薬『漢方研究 2021年度消夏随筆特集』に書いた「 父の間質性肺炎と定喘湯」を掲載します。

投稿日: 2021年06月17日

 今夏は父の初盆を迎えるので、東洋医学会のオンライン開催は有難い。

この2月、父は間質性肺炎急性増悪にて90歳で逝去した。母の祥月命日近く、母の死から4年と3日後、母は確かに迎えに来ていた。

 診断されてから5年近く、定喘湯を保険生薬でアレンジした煎じ薬で何とか持ち堪えていた。勿論、人参養栄湯や八味地黄丸、竜胆瀉肝湯などのエキス剤は適宜加減した。私が漢方に携わる前は、週に1度は風邪をひき近医で抗生物質をもらっていた父であったが、私の処方での漢方歴も長くなると風邪もほとんどひかなくなった。少しは親孝行が出来たかも知れない。

間質性肺炎は小柴胡湯なども上手く使うと有効だと聞くが私は定喘湯を加減することが多い。現在も間質性肺炎を合併する肺気腫や肺癌の何人かの高齢者に使って手応えを感じている。

 父は商売人であったが、趣味で古建築や石塔の研究会を有識者達と50年間続けており、コロナ禍になってからも、休日も欠かさず弟の送迎で会社に行き、自室で資料の整理をしたり、古い映画を観たり、夕刻は散歩にも出かけていた。

1月半ばから増悪、高齢の間質性肺炎の患者は最初の入院中8割近くは亡くなるそうだが、たまたま昨秋から親族が主治医になり(主治医の祖父の世話を母が良くした)厳しい治療も試してくれ、奇跡的に生還。

 ところが隣のベッドの患者さんが途中でコロナ発症。2週間隔離され、PCR陰性で退院でき、5日間だけ自宅で過ごせた。2週間の隔離で父はすっかり歩けなくなっていた。離れに住む父とは出来るだけ接触を避けていたが、もう長くないと思い、風呂にも入れ家族総出で介護した。ところが急変して、緊急入院時のPCRで陽性、そして翌日亡くなった。そのため死因はコロナ、遺骨で帰宅した。私達は濃厚接触者になり少しばかり大変だったがインフルエンザ様症状が出た弟も含めて全員PCR陰性。持病で充分危ない状況かつ感染症だらけの末期に、偽陽性も多いPCRの結果を受けてコロナ死というのは、何だか釈然としない。

 父の普段使いの財布から、金婚式に撮った家族写真と母との写真、母と交わした履歴書と結婚前の母からの手紙の縮小コピーが出てきた。肺門リンパ腺炎で疎開先の中学を休学したとあり、肺は弱かったのだろう。認知症もなく最後まで明るかった父は潔く逝った。

 通院されている、吉野金峯山寺で修行された大阿闍梨さんに、病院に入院する時、自宅だけでなく病院の場所の氏神様にお参りすると経過が良いと聞いた。神社参りに抵抗がない患者さん達にはお勧めしているが、良い先生と出逢えたり、驚くほど経過が良かったりすることが多い。勿論、病院の氏神様がお留守なら無効だが。

 たまたま、父が入院する直前、節分の家族の為のご祈祷を氏神様でしてもらった。自宅の氏神様と父が入院した病院の氏神様は同じである。コロナのため、入院したまま、一度も面会出来ず、ご遺体で帰宅される方も多い中、亡くなる前日まで5日間、本人も自宅で好き放題に過ごし、私達も介護が出来たのは、ご利益があったのではと有難く思う。

 夫婦双方の両親を見送ると、ちょっと自由になる時間があるよ、と患者さん達に聞いたが、確かに寂しい中にも肩の荷が降りた気がする。お盆には毎年恒例、九州の義父母を含め、墓参りの予定である。双方の両親に生前漢方を飲んでもらえて良かったと今思う。